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WTI原油とは
WTIは、原油の種類や混合物を指す名称であり、その現物価格、先物価格、または評価価格を示す用語としても用いられます。一般的にWTIは、ニューヨーク・マーカンタイル取引所で取引されるWTI原油先物契約を指します。「テキサス・ライト・スウィート」とも呼ばれるこの原油は、低密度で低硫黄という特徴を持っています。この特徴から、WTIは原油価格の基準として広く利用され、ブレント原油やドバイ原油などとともに価格報告に用いられる主要な指標です。特にWTIは、ブレントよりも軽く、ドバイ原油やオマーン原油と比べても低密度で低硫黄品質が特徴です。
WTI価格は、原油市場だけでなく金融市場にも深く影響を受けます。特に金融投資家は、物理的な原油を保管できないため、最短期限の先物契約を購入し、それを次の契約へロールオーバーすることで原油価格に連動した投資を行います。しかし、金融市場の規模は原油市場を大きく上回り、投資家の流入が原油生産者のヘッジ需要を凌駕し、先物市場を「コンタンゴ」に移行させることがあります。コンタンゴとは、先物価格が現物価格を上回る状態を指し、この状態では投資家が契約をロールオーバーする際にロールコストが発生します。このロールコストは、仮想的な保管料として見なされ、物理的な保管を提供するストレージオーナーへの間接的な補助金とも解釈されます。実際、WTI市場では物理的な保管を行う参加者がストレージオーナーに該当します。
原油の保管は、供給の混乱や予想外の需要増加に備える保険としても機能します。精製業者は、実際の原油在庫を持つ代わりに、先物契約を購入することで仮想的な保管手段として利用することが可能です。一方、原油生産者は、在庫コストを抑えるために先物契約を売却することができます。また、原油市場へのインデックスファンドの参加は価格変動の抑制にも寄与しています。
WTI先物契約は物理的な引き渡しに結びついており、先物価格は現物市場の状況と価格に収束する仕組みとなっています。しかし、異常な取引が発生した場合、現物価格や評価価格にも影響を及ぼすことがあります。その顕著な例が2020年4月20日で、この日WTI先物の取引が現物価格を押し下げ、評価価格がマイナスになる異常事態を引き起こしました。
WTIは原油価格の主要指標であり、品質の特徴や価格変動の要因を理解することが重要です。金融市場との相互作用や価格安定化メカニズムを考慮した運用戦略が求められます。
原油価格の変動
WTI原油の価格は、世界の経済情勢や地政学リスク、需給バランスによって大きく変動してきました。1973年の第一次オイルショックでは、中東戦争によるアラブ諸国の石油禁輸で1バレル3ドルから12ドル以上へ急騰し、1979年のイラン革命でも40ドル近くまで上昇しました。1986年にはOPECの増産で供給過剰となり10ドル台に暴落。2008年のリーマンショック前には中国の需要拡大で147ドルの最高値を記録しましたが、同年末には30ドル台へ急落しました。2014年には米国のシェール革命により価格が100ドル超から26ドルまで下落。2020年のコロナショックでは需要激減により史上初のマイナス価格(-37.63ドル)を記録しました。2022年のロシアによるウクライナ侵攻では130ドル超まで急騰し、その後は世界経済の減速懸念で70~90ドルの範囲で推移しています。
1970年代:オイルショックによる急騰
1973年の第一次オイルショック(第四次中東戦争によるアラブ諸国の石油禁輸)で、原油価格は1バレル3ドルから12ドル以上に急騰しました。続く1979年の第二次オイルショック(イラン革命)でも供給不安が高まり、1バレル40ドル近くまで上昇しました。
1980年代:供給過剰による暴落
1980年のイラン・イラク戦争で価格は一時1バレル40ドル超まで上昇しましたが、1986年にはOPEC(石油輸出国機構)の生産拡大による供給過剰で10ドル台まで下落しました。
2000年代:原油価格の歴史的高騰
中国を中心とした新興国の需要増加と中東の地政学リスクが重なり、2008年7月には史上最高値となる1バレル147ドルを記録しました。しかし、同年のリーマンショックで需要が急減し、2009年には30ドル台まで暴落しました。
2010年代:シェール革命と価格崩壊
2014年以降、米国のシェールオイル生産拡大により供給過剰となり、原油価格は1バレル100ドル超から2016年には26ドルまで急落しました。その後、OPECとロシアの協調減産により、2018年には70ドル台まで回復しました。
2020年:コロナショックで史上初のマイナス価格
新型コロナウイルスのパンデミックにより原油需要が急減し、2020年4月にはWTI先物価格が史上初のマイナス(-37.63ドル)を記録しました。これは、原油の貯蔵能力が限界に達し、買い手がつかなくなったためです。
2022年:ウクライナ侵攻による急騰
2022年2月のロシアのウクライナ侵攻により、供給不安が高まりWTI原油価格は1バレル130ドル超まで急騰しました。その後、世界経済の減速懸念から70ドル台まで下落しました。
2023年以降:価格の不安定な推移
2023年は世界的な景気後退懸念とOPECの減産が交錯し、原油価格は70~90ドルの範囲で推移しました。今後も、経済成長や地政学リスク、脱炭素政策の進展によって価格は変動すると予想されます。
このように、WTI原油の価格は世界の出来事に大きく左右され、過去には極端な高騰や暴落を繰り返してきました。
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